I-V  マニュスクリプト・美しい装丁の魅力

 東京大学経済学図書館所蔵「アダム・スミス文庫」のうち、マニュスクリプト(手稿資料)は2種類あり、一つは『アダム・スミス蔵書目録1781年』、そしてもう一つが[ヴェネツィアの法令集]です。

ヴェネツィアの法令集(ヴェネツィア?, 16c後半-17c初頭)
[Manuscript, on parchment, of Venetian statutes] 

 

 16世紀後半~17世紀初頭に作成されたと推定されるヴェネツィア共和国の法令集で、獣皮紙(ヴェラム)に記されています。表装には金塗など意匠が施され、表表紙の中央には、ヴェネツィア共和国の守護聖人・聖マルコの象徴である有翼の獅子が描かれています。同様の装丁の書籍が、ヴェネツィアにある国立マルチャーナ図書館(Biblioteca Nazionale Marciana)の修復工房内でも確認されており、この[ヴェネツィアの法令集]の装丁は、ヴェネツィアで作成され、そのまま継承されてきたと考えられます。スミスは、内容のみならず、その装丁の美しさにも魅了されて手に入れたのではないでしょうか。
 実はこの法令集は、1954年に新渡戸稲造旧蔵書として売りに出され、それを東京大学経済学部が購入をしました。新渡戸がロンドンで購入したアダム・スミス旧蔵書が1920年に東京大学に寄贈されたことを考えると、このマニュスクリプトについては、しばらく手元に留めていたと考えられます。新渡戸が、この書物の装丁の美しさや獣皮紙に手書きされていることの珍しさに魅了され、生前に楽しんでいた様子が想像されます。
 展示画像は、表紙(表)、表見返し、本文1葉目、裏見返し、表紙(裏)です。なお、見返しには、写本に用いられた反故紙(獣皮紙)が用いられています。見返しのオリジナルが現在まで残されることは少ないですが、本資料の表見返しと裏見返しに用いられた獣皮紙の反故紙は同一のものであり、本資料の装丁は当時の物が維持されて現在まで継承されている可能性も考えられます。

 表紙(表)

表見返し

本文1葉目

裏見返し

表紙(裏)