I-IV  読書の痕跡 : 書入れの世界

  「アダム・スミス文庫」の中には、様々な書入れが残された書物が複数確認されています。そのうち40点については、海外からのスミス研究者を交えつつ調査・分析を継続しています。書物に残された書入れは、それまでの旧蔵者の読書の痕跡であり、スミスの旧蔵書の来歴をたどるための貴重な情報を与えてくれています。

トマス・ホッブス『リヴァイアサン』(ロンドン、1651年) 
Thomas Hobbes, Leviathan, or, the matter, forme, & power of a common-wealth, ecclesiasticall and civill

 

 トマス・ホッブス(Thomas Hobbes, 1588-1679)による『リヴァイアサン』の初版。総革装・綴付け製本。スミスが所蔵していたのは、初出の真正版としてしられるヘッド版です。『リヴァイアサン』の初版には、3つの異なる版(edition)があることが知られています。各版のタイトルページには異なるヴィネット(vinette)が印刷されており、その違いに応じて、ヘッド版、オーナメント版、ベア版と呼ばれています。リヴァイアサンとは、旧約聖書(ヨブ記ではレビヤタン)に登場する海に住む巨大な怪獣のことで、ホッブスはそれを人民の自然権を委譲された国家権力に喩えています。
 展示画像は、怪獣リヴァイアサンが描かれた口絵、タイトルページ、旧蔵者による書入れのあるページ(pp.1, 2-3)です。

  口絵

タイトルページ

  旧蔵者による

  書入れのあるページ

(タイトルページの次ページ)

 旧蔵者による

 書入れのあるページ

(p.1)

 旧蔵者による

 書入れのあるページ

(pp.2-3)


チャールズ・コーディネ『北部スコットランドの遺物と風景』(ロンドン、1780年)
Charles Cordiner, Antiquities & scenery of the north of Scotland

 

 チャールズ・コーディネ(Charles Cordiner, 1746?-94)の『北部スコットランドの遺物と風景』。総革装・綴付け製本。巻末には、家系図とみられる書入れのある紙が添付されています。左上には、”Douglas”、右上には”Hamilton”、右下には”Buchan”の文字が確認できます。Douglasはダグラス伯爵家を、Hamiltonはハミルトン侯爵家を、そしてBuchanはバカン伯爵家を指していると考えられ、いずれの3家もスコットランドの貴族です。これらの家系図の書入れは、おそらく書物の内容に関連したものであると推察されます。
 展示画像は、タイトルページ、スコットランドのキルドラミーに残された城の図、スコットランド北部フォレスに残された記念碑(オベリスク)の図、スコットランドのゴードン城の図、裏見返しに添付された家系図の書き入れです。

タイトルページ

 図版 I

「キルドラミー城」

 図版 VI

「フォレスの記念碑」

 図版 VII

「ゴードン城」

  家系図

(裏見返し)