展示の構成について
・各展示の構成は、①全景写真(表・裏)、②翻刻・翻音・注釈、③部分写真(透過光・繊維・反射光・繊維配向)からなる。
・②の翻刻は、各文書の字句を漢字の正字でテクスト化したもの、翻音は、漢字のベトナム語読み(漢越音)をクオックグー(現代ベトナム語表記)で示したものである。翻刻は原文の再現に限定し、約物等の記号は入れていない。文意の区切は、翻音におけるコンマやピリオドで、固有名詞はクオックグーの大文字表記で示している。テクストは、この類の文書に特徴的な古典の引用を駆使した美文であることに鑑み、出典の明らかな部分には注釈を付した。
・③部分写真は、料紙調査の結果の一部を示したもので、4つ(a透過光、b繊維、c反射光、d繊維配向)に区分している。
aは、抄紙工程の痕跡(簀の子の簀目数・糸目幅、および乾燥時に紙を貼り付けた板の木目(板目)の跡や刷毛の跡(刷毛目))を見出すに際して参照したもの、
bは、繊維種(このコレクションではすべて沈丁花科のゾーDó(Rhamnoneuron balansae)と呼ばれる植物の靱皮繊維であった)判定の根拠となったもの、
cは、表面の墨、朱、銀付着部分の拡大写真、
dは、紙面の繊維配向性計算の根拠となったものである。繊維配向性は、紙の中にある繊維の向きがどの程度整然としているかの度合いを示す値で、これは、料紙の使い方(料紙の表裏どちらに書記されているか)を明らかにする有力な根拠となる。通常、この値が1.1以上であれば配向しており(簀肌面=多くの場合書写面となる)、一方、1.05以下であれば無配向(捨水面)とされる(韓ほか2010)。
参照文献
宇野公一郎「ベトナム朝廷による神界の管理について」『東京女子大学紀要論集』54(2): 107-120, 2004.3
韓允熙・江前敏晴・高島晶彦・保立道久・磯貝明「中世大徳寺文書に見る和紙の表裏と書状の習慣」『日本史研究』579: 57-72, 2010.11
矢野正隆「ベトナムの誥勅と神勅」小島浩之編『東アジア古文書学の構築 : 現状と課題』2018.3
渡辺美季・荒木和憲ほか『明清中国関係文書の比較研究 : 台湾所在史料を中心に』(東京大学史料編纂所研究成果報告 ; 2021-2) 2021.8
Cadière, Léopold, rédacteur-géneral, L'art à Hué, Nouvelle ed., Association des Amis du Vieux Hué, [1930]
編集担当: 矢野正隆(東京大学経済学部資料室)